超音波堰式流量計「YMT−MUSW」
〜汚水計量・排水計量に最適な流量計〜
株式会社 山幸 高山 和英
1. はじめに
日平均排水量が50m3以上の特定施設(水質汚濁防止法施行令第1条、別表第1を参照)を設置する工場または事業場から、公共用水域(河川、湖沼、海、分流式下水道の雨水管)に排出される水(雨水もこれに含まれる)は、排水基準に適合しなければならない。さらに、各自治体の条例による上乗せ基準にも適合する必要がある。また、上記工場または事業場から、公共下水道を使用する場合も水質が当該公共下水道への排出口において、政令で定める基準に適合しなければならない(下水道法第12条の2を参照。上記施工例及び法は「法令データ提供システム/総務省行政管理局」 http://law.e-gov.go.jp/cgi-bin/idxsearch.cgiを参照して頂きたい)。このように排出水に対する規制や汚濁状態は、濃度による評価と排出量による評価で行われている。特に量的な評価は、排水処理工程における収支の認識、より厳密な排出水の管理、さらには環境汚染に対する原因究明とその対応策を確立する上で必要不可欠な要素であり、今後は従来以上にその重要性を増す傾向にある。
量的な評価とは、流量計による流量計測に他ならない。下水道への排出水や公共用水域への放流水等の汚水の流量計測については、上水の流量計測と比較して、数多くの問題点があり、現在までにその測定方法に悩んだ方も多いと思う。汚水の流量計測について長年の経験と実績を持つ当社は、高精度でアプリケーションの豊富な流量計:超音波堰式流量計[YMT-MUSW](写真1)を開発したので以下にその概要を紹介する。
2. 主な用途
総量規制等に伴う公共用水域、公共下水道への放流量測定。下水道使用料金算出を目的とする排出量測定。排水処理施設、中水製造施設、焼却施設などにおける各処理工程の汚水の流入/流出量の測定とデータ保存・流量管理。
3.動作原理
流量の測定方法には多くの種類がある。弊社製品:超音波堰式流量計[YMT-MUSW]はその測定方法の中で、堰(三角堰、四角堰、全幅堰等)による流量測定方法を採用している。堰による流量測定とは、所定の形状・寸法の堰板を水路又は計量槽に取付けて堰を設け、堰を流れる水の堰板上流の水位から水頭を測定し、これから流量を換算する(第1図参照)。水頭の計測は、垂直下向きに固定された超音波センサを用いる。超音波パルスの発信から受信までの時間Tを測定し、音速Cを乗ずると、(1)式のようにセンサから水面までの往復距離2H1を算出することが出来る。音速は、温度センサにて測定された周囲温度で補正されたものを用いる。
あらかじめ定められた基準点(0mmの水頭地点、堰から流体が流れ始める水頭)の距離データH0から2H1を2で割った値を引くことにより(2)式のように基準点からの水頭Hを求めることが出来る。
4.製品特徴
本製品の特徴を以下に示す。
4−1 広い適応可能範囲
JISで規定された方法に則って流量を測定・算出しているので十分な信頼性を持っている。堰の形状により1m3/H未満の少流量から200m3/H以上(上限無し)の大流量まで、測定可能範囲が広く、あらゆる液体の流量測定に適用できる。また、取付けスペースが確保できれば既設の堰式計量槽や堰式水路に取付け可能である。高湿度や水気温度差の大きな環境においても結露防止装置を設置することにより問題なく測定することが出来る。
4−2 汚水流量の高精度測定の実現
水頭測定の際、測定対象である流体に対し非接触測定なので、流体の如何に問わず流量を測定出来る。また、1秒間に90回のデータサンプリングを行い、毎秒出力するので流量の急激な変化にも対応可能である。水頭計測の距離分解能は1/10mmレベルで、これを流量に換算すれば±1%の高精度流量測定を実現した。第1表に本製品流量計測定果表を示す。
4−3 維持管理の簡易性と精度の維持
開水路用の流量計なので、実際に測定している箇所を点検することができ、メンテナンスが容易である。堰部分の簡単な清掃によりいつまでも高い精度を維持出来る。これに対し、管路用流量計の場合、管路内に汚水の汚れが付着し管径が細くなってしまい、測定値と実量の誤差が広がってしまう恐れがある。また、管路用流量計は清掃・メンテナンスが容易に行えないと言う問題点がある。
4−4 充実した機能とデータの保全性
1時間ごとの流量、1日分の流量、1ヵ月分の積算流量を表示・印刷することが出来る。また、任意の期間の積算流量計算機能もあり、アプリケーション豊富な仕様となっている。これらを用いて例えば、時間帯や曜日に分けた流量の収支分析などの流量管理を行う上で最適な流量計と言えよう。さらに、最大で160日分(約5か月分)のメモリ容量を持っていて、常にデータの蓄積を行っている。停電時にも蓄積されたデータは保存され続け、電源復帰後に過去データの再表示・再印刷が可能である。
現場設置例を写真2に、本製品の仕様を第2表に示す。
5.おわりに
本製品紹介において、水環境の保全と言う視点から流量測定の重要性は十分に御理解頂けたと思う。しかし視点を換えて、工場などの水処理施設の流量管理が企業のコスト管理の意識向上にも繋がり、経済の活性化に影響をもたらす事が期待できよう。
公共水域への総量規制などで本製品の需要は急激に増加している感がある。本製品が環境保全や企業のコスト削減に貢献できるのなら、この上なく光栄である。今後は、さらなるユーザの要求に応えるべく、本製品の機能改善・ユーザアプリケーションの充実に精進して行きたい。
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